『 第4話 ・ ももごあるき 』
思えばこの町に住んで今年で7年目になります。近くにあると案外知らないもので、
今日はあらためて、私の第2のふるさと伏見を歩いてみたいと思います。
伏見は文禄3(1594)年、豊臣秀吉が伏見城築城の際、建築資材を運ぶため港を作ったことから港町、ひいては城下町として発展していきました。というわけで、まずは太閤さんにごあいさつ。遠くからでも見える『伏見桃山城』を目印に坂を登ることにします。
御香宮神社
御香水
スタートは近鉄『桃山御陵(ももやまごりょう)前駅』から。ちなみに学生は「ももご」と略します。「御陵」とは天皇のお墓のこと・・・では一体どなたの?と考えるまもなく、朱塗りの大鳥居をくぐり、伏見城の遺構の石垣を眺めつつ『御香宮(ごこうぐう)神社』へ。その香り高い清泉「御香水」はその昔病を癒したと伝えられています。伏水(ふせみず・ふくすい)と呼ばれる良質の地下水は、口あたりもまろやか。カリウム・カルシウムなどをバランスよく含んだ中硬水で、酒造りに理想的なのだそうです。持参の水筒に詰め、向かいの『桃山餅』でみたらし団子を購入し、準備完了。何しろここからは少々頑張らねば!
ところで先程のギモン、桃山御陵とは、なんと明治天皇のお墓なんです!さらに近くには平安京に遷都された第50代の桓武天皇陵が。実はこちらには、京都におられた最初と最後の天皇が眠っていらっしゃるのです。参道にはひっそりとたたずむ『乃木(のぎ)神社』・・・明治天皇に殉死した陸軍大将乃木希典(まれすけ)が祀られ、死してなお天皇をお守りし続けているのです。(駅近くの大鳥居はこちらのもの)
徐々に坂がけわしくなり、最後は目もくらむ石段その数230段。トレーニング中の近所の中学生に追い越されながらなんとか登りきる(>_<)ふう・・・優しくつつみこむような緑と静けさ、ときおり木々を吹き抜ける風のそよぎを心地よく感じつつしばし休息。この一帯が伏見城跡地。山にそびえる城影は、往時の伏見城を偲んで京都市民によって作られたもので、資料館としてながく親しまれてきましたが、近年惜しまれながらも閉鎖されてしまいました。ところが今、依頼によりライトアップしてくれるんだそうです。なんと個人は3500円で19〜22時半と意外な安さ・・・記念日に壮大なキャンドルはいかがでしょう(*^_^*)
(伏見桃山城メモリアルライトアツプ・問合先(株)アド関西0774−55−9571)
山を降り、太閤さんのおひざもと大手筋商店街に足を踏みいれる前に、ちょっと立ち止まってほしいところがあります。大鳥居の近く、とってもカワイイちりめん人形を売っている『家』(看板がないので)を発見!陳列棚に飾られた手のひらサイズのクマが特にキュートです。お値段もお手頃300円。隣のおばんざい屋さんも入口が凝っていて楽しい(“おばんざい”とは京都のお惣菜のこと。)
魚三楼
さてお昼時、お食事は『魚三楼(うおさぶろう)』で花籠御膳をいただきました。こちらは表格子に鳥羽伏見の戦いの弾痕を残す創業230余年の老舗料亭。小鉢を五弁の花に見立て、彩りの美しさはこれぞ京会席・・・上品で大変おいしゅうございました。
午後一番は『おやかまっさん』???はたしてその正体は・・・大手筋商店街が誇る、ハイテク(?)のからくり時計です!13〜19時の1時間おきに、賑やかな音楽にのせて京都ゆかりの豊臣秀吉、千利休、新選組などの人形が現れ、くるくると回りだします(ちなみに私のお父さんはこれが大のお気にいり)。意味は京ことばで「お騒がせします」。なるほど。この時計は近畿労働信用金庫のものです。そうそう、銀行が多いのもこの商店街の特徴です。それというのもここが元祖「銀座」だから!豊臣秀吉亡き後、天下を譲り受けた徳川家康が、日本ではじめて伏見で大量に銀貨を製産し、全国に通用するようにしたのです。『此付近銀座跡』の石碑や「銀座町」「両替町」などの町名が当時を偲ばせます。
ここでちょっと解説しておきますね。桃山城からまっすぐ東西にのびるメインストリートが大手筋、そこに垂直に交差する南北の「通(とおり)」があり、通と通に挟まれた区画を1区切りとして『銀座跡』碑のある部分を現在では1番街、その西の区画を2番街、さらに西を3番街と呼んでいます。イメージできましたか?
おなかが落ち着いてきたので本日のメイン「変身」のため1番街手前の通を南へ入り『時代衣装おかむら』を訪ねました。やはり女のコの憧れは舞妓さんでしょう。私は残念ながらカツラにしましたが、地毛でも結ってくれるので髪は伸ばしておくべし(なにしろ重いのです、カツラって^^;)。ひやりとするおしろいを背中まで。はじめこそくすぐったくて笑ってしまったけれど、だんだんと鏡の中に「舞妓」ができてゆくと心もそれにつれ引き締まっていきます。目もと口もとに紅をおいたら、あら・・・ええ感じどすなあ。着物は数ある中から、白地に裾にみどりを染め抜いて秋の七草が描かれているもの、だらりの帯は赤に金糸のぬいとりのものを選びました。さっそく記念撮影、お見合いするときはこの写真に決定♪では慣れない「おこぼ」を履いて2時間のお出かけどす。
伏見の酒蔵
三十石船
商店街の人込みを避けて1本南の道を歩いていくと、見えてくる板塀に白壁。
伏見の町並み(伏見夢百衆)
酒蔵
実は酒蔵を模した歯医者さんどした。そこを曲がれば今度こそ日本を代表する酒どころ・伏見・・・その町並みはどこか清々しさを感じさせます。ほのかな酒の香にうっとりしながら『月桂冠大倉記念館』へと足を運んだんどす。こちらは明治期の酒蔵を改装しはって、昔のお酒造りの道具資料をわかりやすく展示してはります。お庭には、お酒の仕込み水が湧き出してます。入館記念におみやげに一合徳利(中身有)をいただいたのも嬉しおした。
続いて坂本竜馬はんゆかりの『寺田屋』へ参りまひょ。少し南に行って宇治川支流にかかる橋を渡り、川沿いに歩きます。橋向こうにある深紅の土塀と唐様の門は『長建寺』はん。御本尊「島の弁天さん」は京都で唯一平安期作の弁才天といわれてます。ところで酒蔵の壁にしだれ柳の緑がよう映えてえらい風情がありますなあ。ふと視線をおろすと川面をゆく船がありました。江戸時代、淀川舟運の要衝として栄えた伏見、大阪まで旅人を運んだのが『三十石船(さんじゅっこくぶね)』どす。今はひとまわり小さい『十石舟』も(どちらも11/28まで・十石舟は平成17年3/26から運行再開予定・問合先(株)伏見夢工房075−623−1360)。今回 は「変身」どしたけど、次来るときは船旅もよろしおすな。
旅籠 寺田屋
三十石舟
ほどなく堂々たる「旅籠」の文字。三十石船を待つ旅人たちが泊まった船宿のひとつが『寺田屋』どす。幕末には薩摩藩の定宿となり、そのため薩摩・長州藩の連絡役を買って出た坂本はんもよう利用しはったんどすな。そんな寺田屋で起こったのが、文久2(1862)年、当時尊皇攘夷派と公武合体派とにまっぷたつに分かれていた薩摩藩の内乱、そして慶応2(1866)年坂本はんが幕府の捕手に襲われた事件どす。今でも柱には生々しい刀傷が残ってます。こわいこわい。不穏な気配をいち早く察し、入浴中にもかかわらず裸同然で急を知らせたお龍はんは後に坂本はんと結婚しはりました。余談どすが、おふたりは日本ではじめてハネムーンに行かれたそうどす。
そろそろ『おかむら』はんへ戻らなあきまへん。今度は竜馬通を通っていこ思います。江戸時代から続く狭い通りは、酒蔵のイメージでお店の構えを統一してはるそうで、なんとなし懐かしい感じがします。中には宇治茶を量り売りしてくれはるとこや、坂本はんのグッズを売ってはるお店はんもあります。『たまり場』はなんでも京都の龍谷大学の学生はんによるチャレンジショップだそうで、かわいらし小物がぎょうさん置いてありましたえ。
「油掛通(あぶらかけどおり)」いう通を右へ。ここを左へ行くと『油掛地蔵』いわはるありがたいお地蔵はんをおまつりした『西岸寺』はんがあります。その昔、油商人が門前で油をこぼし、桶に残った油を寺のお地蔵はんに掛けて帰ったところ、急に商売が繁盛したと。たいそうなことをしたもんどす。今でも家内安全、商売繁盛を祈願して油を・・・ちなみにうちは大学の卒業論文でお地蔵はんにまつわる説話を調べたことがあるんどすが、このエピソードは初耳どした。お地蔵さまの偉大さをかみしめつつ進んでゆくと、『富英堂(とみえいどう)』創業明治27年、こちらの酒まんじゅうはおすすめどす。
さて名残惜しくもすっかり板についた舞妓姿ともとうとうお別れどす。ああ、現実に帰ってゆく・・・(T_T)
かなりはしゃいだので疲れました・・・ティータイムといたします。『花咲み(はなえみ)』はちょうど『おかむら』から1本西に入ったあたり、町屋風の紅柄格子を目印に。表側は美容室、その奥で風情あるお庭を眺めながらほっこり・・・おばんさいランチ(1400円)もあります。会席料理は堅苦しくてイヤ、という方はこちらでも。お酒好きなら『玄屋(げんや)』(3番街過ぎて北へ通を入る)の酒粕らーめん(700円)もいいですね。お茶をするなら『伏見夢百衆(ふしみゆめひゃくしゅう)』(寺田屋近く)もおすすめです。伏見の名水でたてたコーヒーなんていかがでしょう?こちらでは利き酒もできるんです。
身軽になったところで、商店街に繰り出しましょう!銀行の数をチェックするもよし。多いといえば、和洋問わず甘味系のお店も多いです。酒どころ伏見は、実は茶どころ宇治に近い。だからでしょうか?商店街はいつもお茶のいい香りがします。個人的には『ジュバンセル』(2番街)の「さがの路」が絶品!求肥でくるんだレアチーズケーキを、笹で包んであるのもおしゃれ(持ち帰りのみ)。あと100円ショップも多い・・・これはまったく理由がわかりません。
3番街に進む前にちょっと寄り道して北へ。通に入って右手にある小さなお寺『源空寺』・・・二層の山門は伏見城の遺構、山門内には豊臣秀吉に天下統一の大福を授けた大黒天がまつられています。でもこんな説明は無くても、ここはとにかく通りから山門を望む雰囲気がいい!これにつきます。さらにもう少し先、左手にある『ギャラリー吉祥』は紅柄格子の隙間から布袋様と小さな仲間たちが見えて、とっても和みます。温かみのある『伏見人形』は日本最古の土人形で、全国にある土人形の原形といわれています。布袋さまは小さいものから順に7体づつ買い揃えていく風習があるそうです。ではメインストリートに戻って3番街へ。
吟醸酒房 油長
カウンターバー
『吟醸酒房油長(あぶらちょう)』は奥のしっとりとしたカウンターバーで味見をしてから購入できる酒屋さん。伏見の清酒全銘柄約80種を取り揃えています。利き酒セットは好きな銘柄3種類とつきだし(700円〜)。ひとつひとつの蔵元の紹介やお酒の特徴を教えてくれて、とっても親切なのです。私は実はお酒はあんまり強くないので、味の違いを楽しめるほど飲めないのですが、友達は英勲の○○がおいしかったそうです。まあ人それぞれ、好みがあるとは思いますが・・・。
すでにほろ酔い気分ですが、夕食は伏見の蔵元「神聖」直営の鳥料理のお店『鳥せい』にしましょう。厳選された日本酒、酒蔵を活用した店内は蔵独特の高い天井、白壁に太い梁など、歴史の重みを感じさせます。店の南には観光案内所を兼ねたお土産屋処もあり、一風変わった伏見らしいグッズがぎっしり。さらに隣には控えめだけれどセンスが光る酒の器を扱う『Toyoda』。
店の北側では伏見の名水酒の仕込み水に使われている「白菊水」を無料で汲む事が出来ます。私も毎年夏には、御香宮神社とこちら、ちかくにある黄桜カッパカントリーに水を汲みに来ています。伏見にミネラルウォーターは必要ない!?タンクを何個も持ってきている方もいて、そういう方は「時間がかかるから先どうぞ」と順番を譲ってくれます。この町は、ここで醸される清酒のように心の澄んだ、心をあったかくさせてくれる人が多いのです。
商店街にはお茶の香り、ひとつ曲がればお酒の香り、どちらもおいしい水があればこそ・・・私の大好きな水どころ、すてきな伏見にぜひ機会を見つけてお立ち寄りください。
04.12.19 記:あさがお
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